怒ることぐらいしかできない
デパートで奥さんの買い物待ちのためにソファを探してたが全て埋まっていたので、ソファのそばに立って待ってた。
ソファには女子高生や赤ちゃんを連れたお父さんそして80歳くらいのおばあちゃんが座っていた。
僕はその背が曲がった小さいおばあちゃんのそばに立っていた。
空かないかなぁって思いつつiPhoneをいじってるとキャップを被ったチャラい若い男がやって来て
「おばあちゃんおばあちゃん」
と、おばあちゃんに話しかけた。
その男はおばあちゃんの隣に屈んで、目線を合わせて話し込み始めた。位置的には、僕とおばあちゃんの間に入り込んだ形だ。
なんか怪しいなと思って、何を話しているかを聞こうと聞き耳を立てるが、周りがうるさいのと男が背を向けていてよく聞こえない。
おばあちゃんの様子をみる限りでは、別に顔見知りという相手ではなさそうだった。
なにを話してんだろ?と心配していると男が立って去って行った。
おばあちゃんはホッとしたような雰囲気でソファに座り直した。その様子をみてよくわからないけど面倒なことになりそうじゃなくてよかったなぁ。っと思った。
ただ僕は何があったのかを知りたくなってしまった。でもどうしても知らなくちゃならないことでもないから別にいいじゃん。とも思った。真相を知るには聞くしかないんだし。と。
聞くか、聞かないか、その選択を僕は選ぶ必要があった。しかし、聞かないを一度選択しても、また数秒後に同じ選択を自分が迫る気がした。迫る自分がとても面倒だと思った。また、こんなことを考え巡ることもとても面倒だと思った。
だから僕は聞いた。
「すみませんがさっきの男の人は何を言ってたのですか?」と。
おばあちゃんは急に僕に質問されたことになんの驚きもせずに自然に
「いや、携帯電話を落としたっていうの。携帯電話を持ってませんか?だって。こんなばばあだし、使わないし持ってないよって言ったら行っちゃよ」とのこと。
なるほどそうでしたかと相槌を打つと、「怪しい男だから、信用できないね」と笑った。
恐らく善意につけ込んで番号を取得する手口だったんだろう。
あとで奥さんにこのことを話すと「本当に最低だな。そいつら」と怒った。僕ももっともだ。と同意した。
でも怒ることくらしいかできないんじゃないかとも思って遠くを見たら夕日が赤くて眩しかった。
これからも何があってもこいつはこうやって現れて、全ての意味を無意味化する。
でも、全てどうでもいいことだけど、全て愛すべきことでもあるから、丁度トントン。そういう世界さ。